酪農
経営

乳用育成牛を活用して低コスト和牛子牛生産を

行っている収益性の高い酪農経営

尾田 修一

 

.地域の概況

 



新発田市は県都新潟市に隣接した、新潟平野の北部に位置する阿賀北の中核都市で、平成15年に旧豊浦町、平成17年に旧紫雲寺町、旧加治川村と合併して拡大し、総面積532ku、人口106,000人の県内5番目の都市となっている。江戸時代には10万石の城下町として栄え、現在も国の重要文化財となっている新発田城や足軽長屋などの文化遺産をまちの随所にとどめている。

産業は農業を中心に電気機械工業、縫製業、食品工業や小売業等が盛んであり、道路網の整備により新たな企業の進出も続いている。農業については、加治川の水系によって潤う肥沃な土地を利用した県内有数の良質米コシヒカリの産地となっているが、畜産も盛んに行われており、新潟県全体では農業産出額に占める畜産物の割合が18%であるのに対し、新発田市では40%(94億円)を畜産物が占め、新潟県内の市町村の中では最も高い畜産物算出額となっている。

 

尾田牧場のある豊浦地区は新発田市の南に位置する、ほぼ平坦な水田単作地帯で、地域内には大正初期に掘削された月岡温泉があり、旅館数22軒で年間65万人の観光客が訪れる一大観光地となっている。畜産については、地域の酪農経営で生産された子牛を背景に肉用牛肥育経営が盛んであり、以前は「豊浦牛」の銘柄で県内に広く販売されていた。

新発田市では、家畜排せつ物法の施行に対応して、平成17年に管内3ヵ所に有機資源センターを建設して家畜ふん尿の堆肥化を推進しており、この有機資源センターを核とした耕畜連携による土作りを進め、安心・安全な農畜産物の生産と高付加価値化を目指している。

 

(1)産業構造(平成17年)

 

区分

総数

産業別分類

第一次産業

第二次産業

第三次産業

就業人口

51,985

4,586

16,003

31,396

構成比

100

8.8

30.8

60.4

 

(2)農業産出額(平成17年)

(単位:千万円)

農業産出額

畜産物

野菜類

花き

豆類

果実

いも類

その他

2,358

1,182

944

133

37

19

10

8

25

100

50.1

40.0

5.6

1.6

0.8

0.4

0.3

1.1


(3)飼養戸数、頭数(平成18年)

                       (単位:戸数・戸、頭羽数・頭、千羽)

区  分

乳用牛

肉用牛

採卵鶏

ブロイラー

戸数

頭数

戸数

頭数

戸数

頭数

戸数

羽数

戸数

羽数

新潟県

369

11,790

361

12,920

195

204,400

39

4,353

15

828



2.経営・生産の内容


1)労働力の構成

 

区分

経営主との続柄

年齢

農業従事日数(日)

部門または作業担当

備考

 

うち畜産部門

 

本 人

57

305

305

酪農全般

 

 

長 男

26

305

305

酪農管理作業

 

家族

53

200

200

経理事務

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常雇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨時雇

のべ人日           75 人日

 

 

 

  
(2)過去5年間の生産活動の推移

 

 

平成14

平成15

平成16

平成17

平成18

畜産部門労働力員数(人)

2

2

2

2

3

飼養頭羽数(頭)

38

38

43

41

48

販売・出荷量等(kg

397,565

385,203

383,779

399,025

449,562

畜産部門の総売上高(円)

49,244,794

47,571,381

50,349,520

52,016,756

55,695,416

 

主産物の売上高(円)

42,257,312

41,484,680

40,296,842

42,643,225

46,860,048

 

  
(3)経営・技術等の実績

 

 

 

3.経営実績の特徴

 



1.健康な牛作りによる所得の向上

乳牛の健康を維持し、生乳の生産性を向上するために以下の取り組みを実践し、経産牛1頭当たり所得242千円、総所得1,200万円という収益性の高い経営を確立している。

これらの取り組みによる乳質の向上により、平成1812月には新潟県が推進している「畜産安心ブランド生産農場(クリーンミルク生産農場)」に認定されている。

 

(1)強健な育成牛作り
 免疫グロブリン濃度の高い経産牛の初乳を凍結保存して、出生した子牛にすぐに給与する体制をとり、搾乳牛舎から早期に隔離して飼養することで疾病防止を図っている。その後、初期のルーメン発達を促すため、固形飼料を早期に摂取させる目的で、バーデンスタート(ボトル型人工給餌器)を利用した人工乳の給与や水分の十分な補給により育成牛の初期発育向上に効果を上げている。育成牛は5ヵ月齢前後まで、パイプハウスを活用した育成牛舎で管理した後、提携している北海道の個人牧場に分娩前3ヵ月まで預託して、強健な牛作りに努め、搾乳牛の基礎作りを行っている。

 

(2)搾乳牛の乳房炎防除
 毎日利用するミルカーの真空圧等の検査を徹底するとともに、適正な真空圧を維持できるミルカー台数で、乳房炎防除マニュアルに基づいた搾乳作業を実践している。特に、牛体を汚さないためにカウトレーナーを設置し、ダニ等の予防を行うため牛体への噴霧器による殺虫剤散布を定期的に行っている。また、敷料のモミガラは細菌の増殖を防止するため搾乳牛舎内には堆積しないことを徹底し、消石灰を混合して利用することにより衛生対策を実施している。

 

(3)配合飼料の多回給与

第一胃の恒常性を保ち必要養分量の充足を図るため、平成13年に自動給餌機を導入して、18回の配合飼料の個体別給与を行い、消化器疾病の予防を行うとともに、作業労働の省力化を図っている。さらに、飼料摂取時の盗食を防止するため、自分で盗食防止板を設置して飼料管理を徹底している。

 

(4)暑熱対策の実施

夏期の暑熱時の健康管理と乳量の低下を防止するため、暑熱対策としてトンネル換気システムを平成17年に導入して事故の予防と体力の低下を防止している。

 

2.受精卵移植技術を活用した和牛子牛生産による収入確保

現状の搾乳施設では生乳の売上が限界にあることから、収入確保の手段として受精卵移植技術を活用した和牛子牛生産に取り組み、県内の家畜市場での販売を行っている。平成18年の子牛販売収入は7,956千円(40頭、手数料込み)で、うち和牛子牛が3,609千円(45%)を占め、大きな収入源となっている。

和牛子牛の販売実績は表-1に示したとおりで、市場平均価格に比べて368%増の高い価格で販売しており、販売時の日齢体重も雌子牛1.05kg、雄子牛1.18kgと高く、以下の取り組みにより良好な発育を確保している。

 

(1)和牛子牛の生産方式
 北海道の契約農場へ預託した育成牛のうち、発情の状態が良い育成牛に尾田氏が所有している和牛凍結受精卵を移植してもらい、分娩3ヵ月前に北海道から引き取る方式で和牛子牛を生産している。現在の育成牛預託頭数は15頭となっている。

 

(2)初期発育を重視した飼養管理
 乳用育成牛と同様の体系で管理し、和牛子牛の母牛は初産牛であるため、免疫グロブリン濃度の高い経産牛の凍結初乳を活用し、疾病予防を行っている。また、バーデンスタートを利用した人工乳の早期給与、電解質を含む水分の補給を行い、哺乳期間を6090日として初期発育の向上を図っている。

 

(3)パイプハウスを利用した育成施設の活用
 子牛の管理は、出生後すぐに搾乳牛舎から隔離し、パイプハウスを利用した育成施設を利用して管理を行っている。特に、敷料(モミガラ)は乾燥した状態を保ち、換気に留意したストレスのない管理で初期発育の向上を図っている。

 

(4)生産履歴及び飼料給与内容書を添付した子牛販売の実施
 販売する子牛については、和牛子牛だけでなく交雑種子牛、乳用種子牛についても生産履歴と給与した飼料内容、病歴、投薬歴を記載した書類を添付して販売し、購買者が安心して購入でき、子牛時期の履歴の問い合わせがあった場合にもすぐに対応できるように心がけている。

 

-1 上越家畜市場における和牛子牛の販売実績

区   分

尾 田 販 売 実 績

参考(市場平均)

雌・雄別

市場開催

時期

販売

頭数

平均

販売価格

平均

日齢

平均

体重

日齢

体重

平均

販売価格

平均

体重

雌子牛

183

1

436,800

253

237kg

0.94kg

424,268

246kg

186

 2

431,550

181

196

1.08

399,254

254

196

 1

687,750

221

245

1.11

410,081

261

計・平均

 4

496,913

209

219

1.05

  −

雄子牛

183

 2

584,850

248

289

1.17

547,449

274

186

 2

569,625

235

270

1.15

521,037

285

196

 1

622,650

261

327

1.25

499,282

279

計・平均

 5

586,320

245

289

1.18

  −


3.堆肥の供給を通じた耕畜連携による環境保全への取り組み

堆肥は「商品」であるとの信念を持ち、環境リース事業により建設した切り返し方式の堆肥舎を活用して、臭気の発生を抑えて品質の良い完熟堆肥の生産に努めている。地域の野菜・花卉栽培農家への堆肥販売により年間1,325千円の収入を確保しているほか、地域の耕種農家と連携して、堆肥との交換によりモミガラ70ha分を収集する耕畜連携体制を構築している。

 

4.生産コスト低減への取り組み

 

(1)施設機械の保守管理の徹底
 施設、機械の保守管理を徹底して長期間にわたって利用しているほか、パイプハウスを活用した低コスト施設の建設により、売上高対減価償却比率は9.8%と非常に低く、コスト低減が図られている。

 

(2)自家労力を活用した経費の節減
 長男が家畜人工授精師資格を取得して、人工授精業務は家族で実施しているほか、施設の改善や修繕に際しては自家労力により対応している。また、削蹄作業は地域の酪農家3戸共同で実施し、1頭当たり1,000円の経費で定期的な削蹄を実施している。

 

(3)飼養管理の省力化による自家労働費の節減
 搾乳作業についてはミルカーレールと自動離脱装置を利用した後ろ搾り方式の導入、飼料給与作業は自動給餌機の利用、牛体管理についてはカウトレーナーを設置して汚れ防止を図り、省力的な飼養管理体系を確立している。また、育成牛は全頭、北海道の個人的に提携している牧場に1480円の経費で預託して管理労力の軽減を図っている。

 

(4)飼料の適正給与の実践
 飼料給与面で自動給餌機を利用した18回の濃厚飼料の個体別平衡給与により、飼料の粗タンパク質、可消化養分総量の年間充足率がいずれも104%と適正であり、経産牛1頭当たり乳量(9,287kg)の向上に結びつけて、コスト低減を図っている。

 

(5)記帳による経営管理の実践
 地域の酪農組合の仲間と共に、平成6年からコンピュータを利用した複式簿記に取り組み、数字に基づいた経営管理を実践してコスト低減につなげている。平成193月には、平成18年に2年間の酪農研修を終えて就農した長男、妻との3人で、家族経営協定を締結し、作業分担、労働報酬、定期的な休日の確保を明確にするとともに、定期的なミーティングタイムを設けて経営内容の検討を行っている。

 
 

4.経営の歩み


1)経営・活動の推移

 

年次

作目構成

飼養

頭数

飼料作付

面  積

経営・活動の内容

 

S43

 

 

 

 

S46

 

S53

 

 

S54

 

 

S61

 

H6

 

 

 

H7

 

 

 

H13

 

 

H15

 

 

 

 

 

H16

 

H17

 

 

H18

 

 

 

H19

稲作・酪農

 

 

 

 

稲作・酪農

 

酪農・稲作

 

 

酪農・稲作

 

 

酪農・稲作

 

酪農・稲作

 

 

 

酪農・稲作

 

 

 

酪農・稲作

 

 

酪農・稲作

 

 

 

 

 

酪農・稲作

 

酪農・稲作

 

 

酪農・稲作

 

 

 

酪農・稲作

1

 

 

 

 

4

 

10

 

 

20

 

 

30

 

38

 

 

 

38

 

 

 

40

 

 

43

 

 

 

 

 

43

 

41

 

 

48

 

 

 

48

 

 

 

 

1ha

 

1ha

 

 

1ha

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本人、農業高校を卒業し、6月に初妊牛1頭を導入して、10月から手搾りによる搾乳を開始する

その後、雌子牛の自家保留や親戚の酪農家からの導入により徐々に規模拡大

 

バケットミルカーを導入、飼料作としてトウモロコシ、牧草を栽培

 

規模拡大を目指し、総合資金2,200万円を借り入れて、現在地に牛舎(6.5×25間)を新築移転する

 

生乳の生産調整により、総合資金で乳牛を導入する計画を断念、(25頭程度の規模で経営を続ける)

 

パイプハウスを活用した低コスト育成施設を建設

 

酪農組合の仲間と共に、コンピュータを利用した複式簿記による税務申告を開始する

交雑種子牛を6ヵ月程度飼養して市場への出荷を始める

 

搾乳方法をミルカーレール利用の後ろ搾り方式に変更し、自動離脱装置の活用により省力化を図る

パイプハウスを活用した乾乳牛舎、モミガラ貯蔵庫を建設

 

自動給餌機を導入し配合飼料の多回給与と省力化を図る

受精卵移植技術を活用した和牛子牛生産を開始

 

長男、文系の大学を卒業後、新潟県認定就農者に認定され、茨城県内の酪農家等で研修、研修期間中に家畜人工授精師免許を取得

育成牛は全頭、北海道の牧場に預託し、状態の良い牛には和牛の受精卵を移植

 

補助付きリースを活用し、たい肥舎を建設

 

長男、研修を終え、就農し、飼育管理を担当

暑熱対策にトンネル換気システムを導入

 

水田165aは酪農に専念するため、自分での作付を25aとし、残りは全て委託にする

新潟県の「クリーンミルク生産農場」に認定される

 

家族経営協定を本人、妻、長男で締結する

 

 

5.環境保全対策

 
1)家畜排せつ物の処理・利用状況

 

処理方式

(○を付してください)

全て分離・一部分離・混合処理・その他(     )

処理方法

(記述)

畜舎よりバーンクリーナーで搬出後、堆肥舎(ブロア付き)でのショベルローダーによる切り返し処理により堆肥化

敷  料

(記述)

全量、モミガラを利用する。地域の生産組合等への堆肥供給により70ha分を確保する他、一部カントリーから購入している。

 

内容

割合

用途・利用先等

条件等

備考

販  売

80%

野菜、花栽培農家

ダンプ1台の実績販売

単価は平均3,600

 

交  換

20%

生産組合、個人農家

モミガラとの交換

 

無償譲渡

  %

 

 

 

自家利用

  %

 

 

 

 

6.地域農業や地域社会との協調・融和のための取り組み

 



1.地域の農業・畜産に関わる活動

(1)組合等の組織活動

地域の酪農組合の理事を3期、農業委員を2期務めてきたほか、農業共済組合の運営委員、理事を18年間務め、現在は新潟県農業共済組合連合会の監事、下越農業共済組合の副組合長として農業・畜産の発展に尽力している。

(2)削蹄作業の共同化

地域の酪農家3戸で、削蹄枠の共同利用と共同作業実施体制を構築し、11,000円の負担で年2回の定期的な削蹄を行い、コスト低減を図っている。

 

2.地域資源の循環型畜産の実践

平成16年に畜産環境リース事業を活用して切り返し方式の堆肥舎を建設し、地域の野菜(アスパラ等)生産農家や花卉栽培農家に良質堆肥を販売しているほか、生産組合等と連携して地域内で排出されるモミガラ70ha分を堆肥との交換で収集し、敷料として活用する体制を構築し、地域の土作りに貢献している。堆肥利用者との連絡をスムーズに行うために連絡先を明示した自作のカレンダーを作成し配布している。

 

3.後継者および担い手育成への取り組み

新潟県が実施している新規就農者支援特別対策事業を積極的に活用し、長男を認定就農者として、茨城県内の酪農経営を中心に、2年間研修させ、様々なタイプの酪農経営に関する知識の習得を図れるよう後継者育成を行っている。また、新潟市新発田市内の中学生の研修を受け入れている。

 

7.今後の目指す方向性と課題

 



1.日常作業の効率化を図るため、乳牛の飼養形態や敷地内での作業効率の良い施設配置を検討している。そのために、現牛舎に隣接した土地を整地済みであり、さらに水田の基盤整備が終了する3年後には牛舎に隣接して2haの土地が集積される予定なので、パドックや採草地としての活用も視野に入れている。

 

2.牛乳消費量の減退に対して、乳質面で消費者に自信を持ってアピールできる生乳を生産する必要があると考えており、ネーミングをつけて牛乳を販売する時代への対応として、将来的に地域内での販売を検討したい。

 

3.受精卵移植技術を活用し、北海道の契約牧場に預託した育成牛からの和牛子牛生産頭数を拡大し、初期発育を重視した飼育方式で優良子牛を新潟県内の肥育農家に供給して、にいがた和牛の生産拡大に貢献したいと考えている。

 

4.新発田市の重点施策である「耕畜連携による農畜産物の高付加価値化」にのって、地域で行われている水田の基盤整備終了を機に、水田への堆肥の施用を行い、耕畜連携体制を一層強化して地域に貢献したいと考えている。

8.事例の特徴や活動を示す写真

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

畜舎全景(手前は堆肥舎)(右)

 

経営者(左)と後継者の長男(右)

 
                                                                                                                                                    

 

搾乳牛舎中央通路

 

搾乳牛舎内部ストール

 

トンネル換気設備の換気扇(畜舎外部側)

 

自動給餌機による配合飼料給与

 

手作りの盗食防止板

 

パイプハウスを活用した低コスト育成施設

 

子牛育成施設内部

 

パイプ利用の乾乳牛飼養施設

 

環境リース事業で建設した堆肥舎

 

堆肥購入者に配布している

尾田牧場のカレンダー